東北⼤学名誉教授の賀来 満夫先生がまとめられたハンドブックを紹介させていただきます。
以下の文章は全てハンドブックからの転載となります。
はじめに
中華⼈⺠共和国湖北省武漢市において、昨年、2019年12⽉、原因となる病原体が特定され
ていない肺炎の発⽣が複数報告されました.現在、新型コロナウイルス感染症として、世界各国で
調査、対応がすすめられています.
新型コロナウイルスとその感染症については現時点ではわかっていないことが多くあります.⼈から⼈
への感染も⼀部確認されていますが、どれぐらいの広がりになるのかもわかりません.
皆様が感染症予防について正しく理解した上で安⼼して⽣活していただくことを⽬標に、このハンド
ブックを作りました.ご家庭での新型コロナウイルス感染症を含む呼吸器感染症予防の⼀助となれば
幸いです.
本ハンドブックは、2020年2⽉現在の情報を元に作成しており、今後、最新の情報に沿い変更す
ることがあります.
第1版発⾏
2020年2⽉25⽇
東北医科薬科⼤学医学部感染症学教室特任教授
東北⼤学名誉教授
賀来満夫
第2版発⾏に際し︓
その後、1⽉31⽇に世界保健機関(WHO)は流⾏事態に関して「国際的に懸念される公衆衛⽣上の緊急事態(PHEIC)」を宣⾔し、ついで3⽉11⽇、この流⾏状況についてパンデミック(世界的流⾏)相当との⾒解を⽰しました。
追記︓2020年3⽉15⽇
INDEX
新型コロナウイルスとは?
新型コロナウイルス感染症が流⾏している国や地域?
新型コロナウイルス感染症の症状は?
どうやって感染するの?
気になる症状があるときに気をつけることは?
感染伝播予防の徹底
咳エチケットを守りましょう!
⼿洗いをしましょう!
環境消毒・換気
感染予防に関するQ&A
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)とは?
- コロナウイルスは、コウモリ、ラクダなど、主に動物に感染するウイルスですが、時に⼈
にも感染することがあります. - 2012年にサウジアラビアで報告された中東呼吸器症候群(MERS)ウイルスや、2002年から2003年にかけて中国を中⼼に感染が拡⼤した重症急性呼吸器症候群(SARS)も、同じコロナウイルスのグループです.
- 新型コロナウイルスの具体的な感染源は、まだわかっていません.
2019年12⽉末に武漢市で原因不明の肺炎を発症する⼈が報告され、複数の発症者が市内の⿂介類や動物の⾁などを取り扱っている⽣鮮市場に⾏っていたことから、この市場で売られていた動物が関連すると考えられています.(この市場は、2020年1⽉1⽇に閉鎖されています) - 新型コロナウイルスは、⼈から⼈へ感染します.世界保健機関は、⼀⼈の感染者から2⼈程度の⼈にうつるのではないか、と考えていますが、これは、季節性インフルエンザよりもやや低い程度です.
- 現在、新型コロナウイルスに対するワクチンや特別な治療薬はなく、症状に合わせた対症療法がおこなわれています.
新型コロナウイルス感染症が流⾏している国や地域?
- 2019年12⽉に中国湖北省武漢市で発⽣した感染症ですが、2020年3⽉15⽇現在、世界で15万⼈以上の感染者が報告されています.
- 感染者は、中国をはじめ、⽇本、シンガポール、タイ、アメリカ、オーストラリア、カナダ、フランス、イタリア、スペインなど、世界140カ国以上で報告されています.
新型コロナウイルス感染症の症状は?
- 主な症状は、発熱・せき・頭痛・倦怠感(体のだるさ)です.これは、⼀般的な⾵邪の症状に似ていますが、症状が⻑引く傾向があります.
- 症状が現れない⼈や、軽微な⼈もいます.
- 現在のところ、それほど重症度は⾼くないと考えられていますが、肺炎と診断された⼈では、呼吸困難が出現しています.
- 特に⾼齢の⼈や、糖尿病・慢性肺疾患・免疫不全などの基礎疾患のある⼈は重症化する傾向があります.
- 潜伏期間*は2〜12.5⽇といわれています.
* ウイルスが体内に⼊ってから症状が出はじめるまでの期間のことです.
どうやって感染するの?
⼈から⼈への感染が起きていると考えられています.
- 中国武漢市での発症者の多くが、発症前に武漢市内の⽣鮮市場に⾏っていたことから、その⽣鮮市場に感染源があったと考えられていますが、今のところ、特定されていません.
- その⼀⽅、⼈から⼈に感染した事例が報告されています.
⽇本を含む世界各国から報告された感染者は、発症した家族や同僚などとの濃厚接触があり、感染したと考えられています. - 濃厚接触とは以下のような場合とされています.
- 新型コロナウイルス感染症が疑われる発症者と同居している
- 新型コロナウイルス感染症が疑われる発症者と閉鎖空間で⼀緒にいた
- 新型コロナウイルス感染症が疑われる発症者の咳・くしゃみのしぶき、⿐⽔などの体液に直接触れた
※くしゃみや咳のしぶきは1.5〜2メートルの距離まで届きます.
おもに、⾶沫(ひまつ)感染、接触感染により伝播すると考えられています.
⾶沫感染とは︖
- 感染した⼈の咳・くしゃみ・つば・⿐⽔など⾶沫(とびちったしぶき)の中に含まれているウイルスを⼝や⿐から吸い込むことにより感染することです.
接触感染とは︖
- ウイルスが付着した⼿指で⿐や⼝や⽬に触れることで、粘膜などを通じてウイルスが体内に⼊り感染することです.
- 感染者がくしゃみや咳を⼿で押さえた後、その⼿でドアノブ、スイッチ、⼿すりなど周りの物や場所に触れるとウイルスが付きます.他の⼈がその物や場所を触るとウイルスが⼿に付着し、その⼿で⼝、⿐、⽬を触ることで粘膜から感染します.
気になる症状があるときに気をつけることは?
14⽇以内に中国を含む海外への渡航歴のある⼈や、渡航歴のある⼈、感染が確認された⼈に濃厚接触する機会があり、その数⽇〜12⽇後に発熱・咳などの症状がある⼈、症状が続く⼈は、以下のことに注意します.
(1)発熱・咳などの症状がある場合、できる限り、外出は控えて下さい.
⼈前に出る時や外出する時はマスクを着⽤し、⼈の多いところは避けてください.
(2)毎⽇2回(朝、⼣)体温を測ってください.
- 体温が37.5度以上になったり、激しい咳が出たり、息苦しい等の症状がみられたら、ただちに最寄りの保健所に連絡してください.
- 他者への感染のおそれがありますので、保健所の指⽰があるまで絶対に直接医療機関に⾏かないでください.
(3)症状がある家族とは、できる限り部屋を分けましょう.
症状がある家族の部屋は、窓のある換気ができる部屋にします.
※詳しくは対策のページで説明します.
感染伝播予防の徹底
家庭でできる感染対策の基本は、こまめな⼿洗い、正しいマスクの使⽤、症状があるときは外出を控えること、です.
感染症にかからない、うつさないためには、
複数の対策を組み合わせることが⼤切です.
対策1.咳エチケットを守りましょう!
マスクは、咳やくしゃみによる⾶沫やそこに含まれるウイルスなどの病原体が⾶び散ることを防ぎます.
- 咳・くしゃみなどの症状のある⼈はできる限り、外出を控えましょう.
- やむを得ず出かけるときは、正しい⽅法でマスクを使いましょう.
咳やくしゃみをする時は、ハンカチやティッシュ等で⼝と⿐を覆い、他⼈から顔をそむけ、1メートル以上離れましょう.
- 使⽤した紙は、すぐにゴミ箱に捨てて⼿を洗いましょう.
- ティッシュがないときは、洋服の袖で⼝・⿐を覆います.
咳の症状があるときは、周りの⼈へうつさないためにマスクを着⽤しましょう.
咳をしている⼈に、マスクの着⽤をお願いしましょう.
対策2.⼿洗いをしましょう!
⾃宅に感染症を持ち込まないためには・・・
外出時は、多くの⼈が触れた場所を⾃分も触れている可能性があるため、外出から戻った後は、流⽔と⽯けんで⼿を洗うか、アルコールで⼿指を消毒しましょう.
家庭の中での⼿洗いのタイミング
・外出から戻った後
・多くの⼈が触れたと思われる場所を触った時
・咳・くしゃみ、⿐をかんだ後
・症状のある⼈の看病、お世話をした後
・料理を作る前
・⾷事の前
・家族や動物の排泄物を取り扱った後
・⾃分がトイレを利⽤した後
外出中も⼿洗いのタイミングは同様です.
洗⾯台もアルコールもない場合や、⼩さなこども、⼿の不⾃由な⾼齢者は、アルコールを含んだウエットティッシュで両⼿をゴシゴシと隅々まで丁寧に拭くのも効果的です.
対策3.環境消毒・換気
咳やくしゃみなどの症状がある⼈が、⼿で⿐や⼝をおさえると、⼿にウイルスがつきます.
その⼿で⼿すり、テーブル、ドアノブなどに触れることで、ウイルスが環境表⾯につきます.
そして、他の⼈がその場所を知らずに触り、⾃分の⼝、⿐、⽬を触れることで感染することがあります.
<環境消毒>
- 家族がよく触れる場所(部屋のドアノブ・照明のスイッチ・リモコン・洗⾯台・トイレのレバー等)を消毒します.
- 1⽇1〜2回、ドアノブ、テーブル、てすり、スイッチなど、⼿のよく触れるところを、薄めた漂⽩剤(0.05%次亜塩素酸ナトリウム⽔溶液)または、アルコールを含んだティッシュで拭きましょう.
※漂⽩剤(次亜塩素酸ナトリウム⽔溶液)を使⽤した場合は、拭いた場所がさびるおそれがありますので、消毒後は⽔拭きしてください.
<換気>
- 感染症の伝播(うつる)を防ぐためには、部屋のウイルス量を下げるために、部屋の⼗分な換気を⾏います.⽇中は1〜2時間ごとに5〜10分間窓や扉を開けるなどして部屋の空気を新鮮に保ちましょう.
<空間>
- 症状がある家族とは、できる限り部屋を分けましょう.症状がある家族の部屋は、窓のある換気ができる部屋にします.
- 症状がある家族本⼈および同居の⼈は⽯鹸と流⽔でよく⼿を洗い、同じ部屋などで⽬安として1〜2メートル以内で接するときは、どちらもマスクをしましょう.
感染予防に関するQ&A
※新型コロナウイルス感染症の発症者に関する情報がまだまだ不⼗分なため、同じコロナウイルスのグループに属する中東呼吸器症候群(MERS)に関する注意点に沿って説明しています.
Q1. 感染した(疑われる)家族を看病する場合に気をつけることは︖
A. 可能であれば、部屋を分け、看病を⾏う⼈は1⼈に限定しましょう.
看病をする⼈をなるべく1⼈に限定することで、接触のリスクを下げることができます.
看病をするときは、⼿袋やマスクをつけ、使⽤したマスクや⼿袋などはビニル袋にいれて袋を閉じて捨てます.看病のたびにこまめに⼿洗いを⾏います.
看病するひとも毎⽇2回は体温測定を⾏い、感染症状が出てこないか⼗分に気を付けましょう.
Q2. ⼿を洗うときに気をつけることは︖
A. ⼿はこまめに洗います.流⽔と⽯けんで洗います.洗った後は、⼿をペーパータオルやティッシュで⽔をふき取り、しっかり乾燥させます.家族でタオルを共有することは避けましょう.
いつでも⼿指を消毒できるように、消毒⽤アルコールを準備しておくとよいです.
Q3. ⾷事の時気をつけることは︖
A. 感染の可能性のある⼈と⾷事する際は、⾷器の共⽤は避けます.使⽤後の⾷器は、⾷器⽤洗剤でよく洗います.気になる場合は、熱湯あるいは消毒液に10分以上浸した後、通常の洗浄を⾏えば、その後の他の⼈への使⽤は可能です.
⾷事は、別々に盛り付けます
⼤⽫からの取り分けはしない
使⽤後の⾷器は、通常の洗浄後、他の⼈への使⽤可
Q4. ⾐類・寝具はどうすればよいですか︖
A. 共⽤は避けます.⾐類・布団や枕カバーは、下痢、嘔吐などの体液がついている可能性がある場合は、80℃・10分以上の熱湯消毒をしてから、通常の洗濯を⾏います.気になる場合は、他の⼈の分とは分けて洗濯しましょう.⾊落ちが気にならないものであれば、薄めた次亜塩素酸ナトリウム⽔溶液(0.1%で使⽤する)も有効です.
Q5. ゴミを捨てるときに、気をつけることは︖
A. 発症した⼈の唾液や喀痰を拭うのに使⽤したティッシュや、看護に使⽤したものを捨てるときは、あらかじめゴミ箱にビニル袋をかけ、そこに⼊れるようにします.ビニル袋の⼝を縛り、捨てたティッシュに⼿が触れないようにしてください.
Q6. トイレに関して気をつけることは︖
A. 感染の可能性のある⼈が使⽤した後、ふたがあるトイレの場合は、ウイルスが⾶散しないようにふたを閉めて⽔を流しましょう.
トイレ内はよく換気するように⼼がけましょう.
感染の可能性のある⼈が使⽤した後、便器・便座・ドアノブ・照明スイッチ・流⽔レバーなど⼿が触れる部分は、消毒液に浸したティッシュや雑⼱で拭きます.
トイレの清掃・換気
使⽤後は、便器・便座・ドアノブ・照明スイッチ・流⽔レバーなど⼿が触れる部分を消毒液に浸したクロスで拭く.
※消毒薬︓アルコールあるいは0.05%に希釈した次亜塩素酸ナトリウム⽔溶液
Q7. 部屋の清掃は︖
A. ⼿がよく触れるところ、たとえば、テーブル、ドアノブ、トイレなどは、1⽇1回以上、消毒⽤アルコールで消毒します.
体液や排泄物による⽬に⾒える汚れがある場合は、消毒液(希釈した次亜塩素酸ナトリウム〔漂⽩剤〕)に浸した使い捨てできるキッチンペーパー等などで拭きます.漂⽩剤を使⽤した場合、⾦属はさびてしまう可能性があるため、消毒薬で拭いたあとに⽔拭きを⾏いましょう.消毒⽤アルコールも効果があります.
出典元
新型コロナウイルス感染症市⺠向け感染予防ハンドブック[第2版]
監修︓賀来満夫(東北医科薬科⼤学医学部特任教授・東北⼤学名誉教授)
作成︓東北医科薬科⼤学病院感染制御部
東北⼤学⼤学院医学系研究科総合感染症学分野
仙台東部地区感染対策チーム